ばなな、食わず嫌いでした。
これまでに数々の作品がベストセラーになっている、よしもとばなな(デビュー当時は吉本ばなな)さんの小説。
まだ私が子供の頃、彼女のデビュー作『キッチン』が流行りましたが、なんか“流行ってる”という理由だけで読む気がしなくて・・・あまのじゃくな子供でした。
そして大人になって随分経った今、いつも本を貸し借りしている友人が、無言でそっと差し出して貸してくれたのが、よしもとばななさんの短編集でした。
●6月19日(火)放送:
よしもとばなな『デッドエンドの思い出』
作者のよしもとさんご自身が「今まで書いた中で一番。これが書けたので小説家になって良かった」とおっしゃってる『デッドエンドの思い出』を含む短編5作品からなる本です。
はっきり言って、辛い箇所が多くて切ないお話ばかりです。作者ご自身も、執筆中に「どうして自分は、一番苦手で辛いことを書いているのだろう?」と思いながら書いていたそうです。
収録作をざっと並べますと、
『幽霊たち』・・・大学の友人で、のちにフランスに留学する岩村君との恋を綴った作品。岩村君の住む部屋に出現する静かな老夫婦の霊のエピソードが、いいスパイスになっています。
『おかあさーん!』・・・会社の社食で起こった毒物混入事件の被害者になってしまったキャリアウーマンの主人公。思わぬ事故によって身も心も崩れてしまう彼女を、温かく介抱しつつ見守る恋人とのお話。
『あったかくなんかない』・・・回想形式で語られる、幼い頃に遊んでいた友達“まことくん”の悲しいお話。
『ともちゃんの幸せ』・・・信じてついていった人にひどい仕打ちをされても、大事な母親が亡くなって悲しい思いをしても、淡々とゆっくりと“自分にとって大切なもの”を暖めながら生きている気丈なともちゃんが、時折見かける年上の男性に淡い恋のような気持ちを抱きます。悲しいけど、柔らかく優しいお話。
『デッドエンドの思い出』・・・婚約者に裏切られた主人公。ショックのさなか、叔父の経営するバーで働く西山君と出会い、彼と対話を続けるうちに元気を取り戻すお話。
収録順に、泣ける度がどんどん高くなると思ってもらって良いかも。でも最終的に救われる内容だったりするので、そういう点でほっとします。過去に辛い恋愛を経験した人は、読むと胸を打たれるかも知れません。
おすすめ度:
★★★★★
まさに食わず嫌いな、ばななさんでした。
貸してくれた友人には大感謝です。