時間の経過で変化する人。
これまでに色々映画を観てきて、はっきり「大嫌い」と言えるものがあります。
『ガンモ』という映画がそうです。動物を虐待するシーンがあったり、ひたすら
不潔かつ不愉快極まりない映像が次々と現れ、さらにそういった表現方法に
“スタイリッシュ”的な賛辞を送るレビューに対しても疑問でした。
それはそれで、映画について色んなことを考える良いきっかけになったわけ
ですが(←これが作った側の最終的な意図だったら、まんまとはまった事に
なりますね)。
今回ご紹介する映画は、苦手な『ガンモ』を撮った映画監督、
ハーモニー・コリンの8年ぶりの映画界復帰第一作ということで。
例によってアレな映画だったらどうしよう?といった不安は当初ありましたが、
心配無用でした。むしろ好きな部類の映画で、最後はホロッときましたよ。
●5月7日(水)放送:
この映画の中では、二つの全く関連性のない物語が最後まで接点を持つ事無く
進行します。
まず一つ目は、パリの街でマイケル・ジャクソンの物真似をしているパフォーマー、
その名もマイケルのお話。子供の頃から自分に違和感を覚え、別人になりたいと
願いながら大人になった彼。友達もおらず、日々ただマイケル・ジャクソンの模倣
を糧に生きる彼が、慰問先の老人ホームでマリリン・モンロー(の真似をした女性)
に出会います。
マイケルもマリリンも他人をコピーすることでしか生きられない事を自覚していて、
二人はすぐに意気投合。「スコットランドに私達のお城があるから来ない?」と、
マリリンはマイケルを誘います。聞けばそこにはマリリンの夫のチャップリン、
娘のシャーリー・テンプル、それからマドンナにヨハネ・パウロ2世、リンカーン、
ジェームズ・ディーン、エリザベス2世など、彼らと同じく他人になりきって生活
している仲間がいると言います。マイケルはすぐに荷作りをし、マリリンと共に
彼らのユートピア・周りを自然に囲まれたスコットランドの古城に旅立ちます。
一緒に彼の地に劇場を造って、パフォーマンスをして暮らす事を夢見て・・・
もう一つのお話の舞台はパナマ。貧困の村に小型飛行機で食料を投下する
教会の神父とシスター達。ある日一人のシスターが誤って飛行機から落下し、
空に放り出されます。着ていた尼僧服がパラシュート代わりになったおかげで
奇跡的に無事に地上に着陸したシスター。その後、他のシスター達も同様に
スカイダイビングに成功。「現代の奇跡だ!」という訳で、神父とシスター達は
これを布教に活用します・・・
パフォーマー達の演技は可笑しく、どこか切ない感じがします。劇場を造る
という目的の過程にあるものは?お互いに淡い思いを抱いているマイケルと
マリリンの、恋と言えるかどうか分からない不器用で微妙な関係の行方は?
敢えて一つの映画の中で全く接点の無い物語を同時進行することによって、
観る側に様々な思いを巡らせる事を要求するかたちに仕上がっている映画。
青い尼僧服を着たシスター達のスカイダイビングシーンが、マイケル達の
物語に実は面白いスパイス的な効果を与えているようにも思えます。
『ミスター・ロンリー』は、5月10日から23日までKBCシネマにて公開です。
おすすめ度:
★★★★☆
監督の視点が温かくて、何だかほっとしました。
役者として出演してるレオス・カラックスが、なんか良かったです。